少し前に「意見箱より ①動物に餌を与えたい」と題して、
「なぜ 誰でも、いつでも、動物園の動物に餌を与えてはいけないか」
についてブログを書きました。今回もご要望に対する回答、ということで書いてみたいと思います。
「動物にさわりたい、だっこしたい」、「もっと動物とふれあいたい」というご要望は非常にたくさんあります。動物に「さわってみる」ことは魅力的な体験であることは確かです。それは十分に理解します。さわってみて初めて分かること、感じることもたくさんあります。

さわってみて分かることも確かにあります
しかし、結論を先に言うと、それらのご要望すべてにお応えすることはできません。
私が園内で直接お客様(仮にAさんとしましょう)からそのように言われたら、このように答えています。
Aさん:「僕はカピバラが大好きなんです。さわってみることはできませんか?」
私:「お気持ちは分かりますが、それはできません。」
Aさん:「ちょっとでいいのに…」
私:「それでは想像してみてください。もしあなたが動物園内を歩いていて、突然知らない人が抱きついてきたり、体をさわってきたらどう感じますか?」
Aさん:「それはイヤですね。気持ち悪いです。」
私:「ですよね。それではご自身の立場をカピバラに置き換えてみてください。毎日、知らない人がやって来てそのようなことをしたら、イヤだし気が休まらないですよね。」
Aさん:「そういうことなんですね…」
つまり、「さわりたい、抱っこしたい」という気持ちは、人間の一方的で自己中心的な気持ちの表れであることも多いのです。
その他にも理由があります。
①衛生面
皆さまの手は清潔に保たれているのでしょうが、ひょっとしたら色々な所に触れた際に、動物の病気の原因になる菌やウィルスが付着するかもしれません。もし、そのまま動物に さわったら、感染の原因となってしまう可能性があります。
特に元々 病原菌などが少ない冷涼な高山が生息地であるレッサーパンダは感染症に対する感受性が高い上に、イヌやネコと共通の感染症があります。さわることはお勧めできません。(特にイヌやネコを飼っている方)

レッサーパンダ
また、畜産王国の鹿児島県では多くのウシやブタが飼育されています。これらの偶蹄目の動物はキリン、シカ、イノシシなどと共通の感染症があります。動物園の動物、畜産農家の動物、両者を守るために さわることはお勧めできません。
②安全面
動物園でくらしている動物は、動物園で生まれ育っています。しかし、元々は野生動物です。長い間人間と生活を共にし、従順な性格のものを選抜して品種改良したペットのイヌやネコとは接し方が根本的に異なります。
初めての人が突然さわろうとしたら、咬まれたり、引っかかれたり、蹴られたりする可能性があります。飼育担当者ですら直接さわれないために、健康診断時は麻酔が欠かせない動物も少なくありません。
もちろん、種類によっては長い時間をかけて信頼関係を築けば、さわれるようになる動物もいます。

どの動物でもさわれるわけではありません
(ブラジルバク)
これまでご説明したことを整理すると
・人が「さわりたい」のと、動物が「さわられたい」は別の問題であり、動物の心への配慮が必要。
・野生動物とは一定の距離感が必要。ペットとは異なる。
・動物を病気にさせない、人がケガしないためには、さわるべきではない。
ということになります。

カバも危険な動物のひとつです
園内のほとんどの動物には さわることができませんが、「ふれあいランド」の動物たち(ヤギやモルモットなど)は、家畜やペットとして長年飼われてきた動物なので、ふれあいを楽しむことができていました。
今は新型コロナウィルス感染拡大防止の観点という別の理由で、動物との ふれあいができなくなっています。
感染症が収束して「ふれあいコーナー」、「タッチングコーナー」が再開したら、手洗いを行うなど衛生面に気を付け、動物の心に配慮しつつ、動物との ふれあいを楽しんでいただけたらと思います。
園長 福守
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