平川動物公園には高齢の動物が数多くいます。シロサイのシノ(1978年生まれ)、シロテテナガザルのテナ(1972年生まれ)などです。動物園で飼育していると、食べるものに困ることがなく、病気の時は治療が施され、外敵に襲われることもないので、野生より長生きすることが多いのです。
若い個体と比べて毛並みが悪く、弱々しい高齢動物を目にして
「かわいそう」
という方がいますが、動物園に高齢の動物がいるのは
「十分なケアがなされているからこそ、長生きしている」
という見方もできます。
ところで、動物の年齢について
「シロサイのシノは1978年生まれなので45歳です」
などと話をすると、
「人間に例えると何歳ですか?」
と質問されることがよくあります。
これは私たちにとって非常に悩ましい問題です。なぜならば、科学的に正しく答えようと考えれば考えるほど、正解が見つからないからです。知らないから答えられないのではなく、答えようがないから答えられないのです。
「イヌやネコは『人間だと○○歳』と聞いたことがある」
という人もいるかもしれません。
おそらくこれは
・動物が繁殖可能となる年齢を大人になる年齢と見なす
・寿命を全うする年齢を動物と人で比較する
ということを根拠にしていると思われます。
ペットとして飼われている動物は、ある程度年齢の目安が分かった方が成長や寿命をイメージしやすく、飼育する上でも役立つからなのでしょう。
しかし、人類の歴史を顧みると、時代や地域によって人の寿命は全く異なります。
また、例数が桁違いに多いイヌなどのペットや人に対し、野生動物の場合はデータの絶対数が少ないですから、比べることは統計学的にも難しいと言えます。野生のものと飼われているものでは寿命が異なる、という別の問題もあります。
動物の種類によって寿命や成熟に達するまでの年月、授乳および養育の期間、身体的な変化が異なるため、正確な年齢の比較は容易ではありません。
ここで、キリンの例を見てみましょう。
雄のキリンは繁殖能力が備わるのは早くて3歳半ほどです。その後も体格は大きくなり、6~7歳ごろまでは背丈が伸び、体の厚みが増します。
雌のキリンは4~5歳で妊娠可能となり、寿命に達する直前まで妊娠・出産が可能です。20歳以上での出産事例も少なくありません。
平川動物公園でキリンのアヤトが生まれた時、父親のハートは9歳、母親のアヤメは23歳でした。その翌年、残念ながらアヤメは寿命で死亡してしまいました。
アヤメはキリンとしての寿命を全うし、比較的長生きだったと言えます。この時の年齢を
「人に例えると80歳…」
などと表現すると、
「亡くなる前年に高齢で出産させたとは…可哀そう」
という声が聞こえてきそうです。もちろん、キリンとして不自然なことではないのですが。
実際にはもっと高齢で出産したキリンの例もあります。このあたりが人以外の生き物の年齢を人に当てはめることは無理がある、ということなのです。
カメやワニなどの爬虫類は、生きている限り少しずつ成長を続けるものがいます。人も含め、生き物はそれぞれの時の流れの中で生きているので、単純に比較することはできないのではないかと考えます。
以前、ある動物園関係者から
「人に例えると○歳というのは、日本人特有の表現らしい」
という話を聞きました。このブログを書くにあたり、外国の動物園で動物が死亡したニュースをいくつかネット上で読んでみました。
「平均すると飼育下での寿命は○歳ぐらい」
と書かれているものはありますが、
「人に例えると○歳」
と書かれているものは私が調べた範囲ではありませんでした。
「この動物は人間に例えると何歳ですか?」
という質問は日本人特有のものなのかもしれません。
そのようになった背景について私は知りたい、調べたいと思っています。
園長 福守