ビッグマザー コアラのユメ ありがとう

今回のズーブログでは、3月に10歳で死亡したコアラのユメについて紹介したいと思います。

若かりし頃のユメ。スリムな体型が特徴でした。

コアラの寿命は10~12歳程度。死亡したユメも10歳でしたので、高齢個体といえる年齢でした。しかしながら、まだまだ活動的で恋にも?積極的な素敵なメスコアラでした。元気に暮らしていると思っていたユメですが、2月に下あご付近にしこりがあるのを確認し、検査結果からリンパ腫という血液のがんに侵されていることがわかりました。

コアラは潜在的に保持しているコアラレトロウィルスにより、リンパ腫や白血病にかかりやすいことが知られています。

ウィルスの増加等により発症すると考えられていることから、リンパ腫そのものを仮に治療し完治できたとしても、レトロウィルスがある限りリンパ腫の再発は避けて通れず、有効な治療方法は確立されていません。

血液検査や症状で発症が確認された場合は、進行具合によりますが1~2週間程度で亡くなってしまいます。リンパ腫と診断されると、病状の進行と個体の状態から、どのような経過をたどるかは大方想像できるぐらい、この疾病で亡くなる個体を見てきました。

ユーカリペーストがとても大好きで、気配を感じて自ら飲みにくることもありました。

「なんとかして病気の進行を遅らせたい」思いの一方、「苦痛となる治療はさせたくない」という思いもありました。

ユメのリンパ腫が判明した際も、そう近くない時期に見送ることになるなと、ある意味担当者として覚悟を決めないといけません。しかし、ユメは一筋のチャンスをくれました。それは抗がん剤の使用についてです。今までもコアラでの使用例はありましたが、末期的な状態での使用で、その効果が評価できない場合がほとんどでした。ただ今回は検査の結果からは、まだそこまでの状態でないと判断し、抗がん剤の使用を試みました。大きな効果はえられなかったかもしれませんが、悪い副反応がないのは確認でき、使用についても大きな問題はないと思われました。

結果としてユメは亡くなっていますが、大きな副反応がなく病態の変化がないことだけでもわかれば、抗がん剤の使用を継続することの障害はないのでは考えられました。詳しい内容は今後判明するかもしれませんが、もっと早くリンパ腫の発症が発見できれば、さらに有効な治療(進行を遅らせる)につながると思っています。ユメはこのような効果を教えてくれたことは、今後のコアラ飼育に一筋の光が照らされたと思っています。

この治療以外にも、ユメは特別なコアラでした。それは子どもを6頭も残し、孫やひ孫も多く、国内のコアラ飼育に大きく貢献してくれたことです。現在の国内飼育頭数は約55頭。その内ユメの血縁は19頭です。同じ血縁が多いことが必ずしも良いことではありませんが、頭数がいなければ種の保存の土俵にも立てず、できることも限られます。ユメの存在が日本のコアラ飼育と保全に大きく寄与していることは間違いなく、本当に頑張ってくれました。

本当に子育て上手でした。飼育担当者は基本見ているだけでした… まさにビッグマザー

コアラという動物は、ユーカリしか食べず、飼育しているとものすごく脆弱と感じます。この生き物を、もっと知り、もっと声を聞き、彼らの生き様を伝えらえるようになりたいと、今回のユメの件では、改めて感じました。彼ら一頭一頭には、生まれてから死ぬまで、それぞれのストーリーがあります。その物語を伝え、思い、感じることは担当者の使命と思っています。

まだまだ分からないことがありますが、コアラをもっと知りたい。この一言につきました。

ユメへ、本当にありがとうございました。

たくさんのメッセージ、お花などありがとうございました。

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