みなさんこんにちは!平川動物ウォッチング隊員の落合です。
今回のズーブログでは、昨年9月から治療を開始し、症状が回復したピースについて紹介したいと思います。
平川動物公園では、昨年9月に大きな出来事がいくつかありました。嬉しい出来事はオーストラリアからオスのアーチャーを迎え入れることができたこと。悲しい出来事は、4頭のコアラを感染症で立て続けに失ってしまったことです。
国内のコアラ飼育の歴史は約40年経過しています。飼育や治療技術が進歩してきていますが、病気の治療に関してはまだまだ課題があるのが現状です。コアラの死亡に関するニュースがあると、「なぜ治せないのか?」や「もっとはやく把握することはできないのか?」などご意見をいただくことがあります。もっともなご意見であり、担当者としても毎回歯がゆくなることもあります。
ほとんどのコアラは体調を崩すと、回復することは稀です。特にガンなどは回復が見込めず、早い段階でお別れがきてしまいます。極端な例では、1か月前の検診で異常が見られなかった個体が発症することもあり、今なお対策に苦慮しています。
昨年、4頭を失った際には、同居している6頭と隣接したエリアで飼育していた1頭の、合計7頭に肺炎の症状が確認されました。
ユメとカナエ親子は症状が極端に悪化することなく、ほどなくして治療が終了しました。
しかしながら、死亡したタイチ、ユイ、ジェイン、アイの4頭とピースは、症状が悪化傾向となり、治療の手段を検討していきました。
一般的には、感染症には抗生剤や抗菌剤、症状の緩和にステロイド、補液などが検討されます。今回の感染症においても、セオリー通り原因菌の特定を経て、対応する薬の選択をし、治療にあたりました。ピースとジェイン親子は、一時は回復に向かいましたが、他の死亡個体と同様に再度悪化する傾向が認められました。
オーストラリアでの治療方法や文献など確認し、やれることを担当者と獣医師で行いましたが、ピース以外の4頭を立て続けに失くしてしまいました。
このままでは、治療は実施したが治らないという結果しか残りません。
なぜ症状の進行を止めることができないのか…
薬は効くが、原因菌の温床になっている組織の末端までは届いていない、原因菌は減少したが、他の細菌類などが増加して悪影響を出している。もしくは一度悪化した肺が回復するまで体力が維持できていないと考えました。
残された手段の一つとして、国内ではコアラに試したことがない治療薬を使用することを選択しました。コアラの治療で厄介なのは、使える薬が少ないことです。理由は、原因菌以外に、ユーカリを消化吸収するのに必要な腸内細菌への影響や、消化管の動きを悪くする可能性があるためです。つまり感染症などの原因菌は死滅しても、腸内細菌も死滅し、結果としてユーカリの栄養を吸収できず、死亡してしまうことが容易に想像できます。ですから、薬の選択は非常に難しく、リスクを背負うことになります。
しかし今回は、腸内細菌や消化管に影響がでることを想定し、採食や栄養補給をリカバリーできる体制を整え治療を進めました。
結果として症状は緩和し、ユーカリも消化吸収できる状態を維持することができ、時間はかかりましたが、肺炎症状の進行を止めることができました。
ピースは1~2週間に一度のレントゲン撮影と採血、毎日の投薬に5か月以上懸命に耐え、新たな治療方法の確立にも貢献してくれました。
治療は一旦終了しましたが、これで終わりでありません。
4頭の尊い命を失い、このような感染症の蔓延を防ぐべく対応を実施しています。
ひとつは予防的観点からワクチンの投与を開始しました。オーストラリアでも行われていますが、同じワクチン製剤が日本では入手が難しいため、類似のものを使用しています。効果の検証は今後の課題となります。
そして飼育環境の見直しです。今回は同居個体間で感染が広がりました。個体同士の接触が感染拡大の原因とみて間違いないと思っています。親子間や子ども同士の接触は、どうしても密になってしまいます。そこで、コアラの行動域を広くとれるように組木を追加しました。加えて、消毒や洗浄頻度を増加させ、飼育エリアを除菌する機材の導入も行いました。
このような対応を実施しても、完全には防ぐことができないのはわかっています。飼育動物の健康管理は担当者の当たり前の業務です。日々の体調チェックと新しい取り組みの模索をしながら、少しでも彼らの暮らしがよくなるよう対応を継続していきたいと思います。
多くの皆様にご心配をおかけしました。なによりコアラたちを救えることができませんでしたが、今後の飼育や管理に繋げることができると確信していますので、当園のコアラ飼育を応援していただければと思います。