レッサーパンダ「風美」との5年間-part4【最終回】

皆さん、こんにちは!
フライングケージ、世界のツルゾーン担当の日高です。
これまで3回にわたって「風美」のことについて書いてきましたが、今回のpart4で最終回です。
話の流れ上、これまでのブログを読まれていない方は是非そちらから順番に読んでいただければと思います。
レッサーパンダ「風美」との5年間-part1 – 平川動物公園公式サイト (hirakawazoo.jp)
レッサーパンダ「風美」との5年間-part2 – 平川動物公園公式サイト (hirakawazoo.jp)
レッサーパンダ「風美」との5年間-part3 – 平川動物公園公式サイト (hirakawazoo.jp)


今回のブログでは、part1のブログの中で3つの目標として挙げていた「心身ともに健康で楽しく過ごせるようにしたい」についてです。
風美自身が楽しいと思うこと、興味がありそうなこと、やりたいことをなるべく実現できるようにサポートしたこと、健康に過ごせるように取り組んだことについて紹介します。


まず、「どんなことを楽しんでいたかなぁ?」と思い返してみると、真っ先に浮かんだのが落ち葉プール遊びです。
屋外運動場のモート(堀)の隅に落ち葉を溜めた場所を作り、私たちはそれを「落ち葉プール」と呼んでいました。
期間限定ではありますが、なぜか秋~冬の終わり頃は落ち葉でプールで泳ぐようによく遊んでいました。長い時は飽きもせずに2~3時間も!
そもそもなぜ落ち葉プールを用意したかというと、これまでのブログにもあるように出会った頃の風美はあまり活力を感じず、食事の時間以外は寝てばかりで行動のバリエーションも決して多くはありませんでした。
何か風美が楽しめることはないか?そして、行動のバリエーションが少しでも増えることを狙って落ち葉プールを試すことにしたのです。
落ち葉はすぐに無料で手に入るので、持続可能な遊びの材料として用意しやすいものでした。(もちろん、異物や有害なものが混入していないか?衛生面に配慮した下準備は必要です)
落ち葉プールで泳いでいる?遊んでいる風美は本当に楽しそうでした!
風美は一人遊びに熱中するタイプなのか?遊んでいる姿を担当者に見られると我に返って遊びをやめてしまうので、いかに風美に見つからないように観察するか苦労したものです。

「担当者発見‼」 この時も遊びの途中で気付かれてしまいました!

落ち葉プール遊びを観察していると、どうやら落ち葉だけで遊んでいる時は遊びの時間もほどほどなのですが、落ち葉の中に適度な長さの太すぎない枝を一緒に混ぜ込んで入れておくと、枝が遊びのスパイスになり長時間遊んでいることが分かりました。
木の枝を咥えながら前転するように泳いだり、寝ころんだり、背泳ぎをしたりしていました。
よくわからない謎の遊びをしている風美はとても満足気で、それはそれで微笑ましかったです。


そして楽しんでいる?というか、楽しみにしていたことは春先に採れるタケノコを食べることでした。
個体によっては全く見向きもせず食べませんが、風美は以前からタケノコが大好きでした。
鹿児島は竹林面積が日本一ということで、園内外で沢山の種類と量のタケノコが採れます。
春先の担当者の仕事は、通常の竹の葉の採取に加えて毎日新鮮なタケノコを採ることでした。
タケノコが生える時期は主食の竹の葉の質が一時的ですが極端に悪くなるので、竹の葉の代用としても非常に役立ちましたし、食べてくれてありがたかったです。
高齢になってからは歯の摩耗もあり、竹の葉を咀嚼するよりも柔らかいタケノコの方が食べやすかったのかもしれません。
ちなみに孟宗竹のタケノコよりも真竹や布袋竹のタケノコを特に好んで食べていました。

一番大好きだった布袋竹のタケノコ
孟宗竹のタケノコを食べる風美


次に「どんなことに興味があったかなぁ?」と思い返してみると、風美は担当者の作業に特に興味を示していたと思います。
清掃時に担当者の後をついてきて塵取りをのぞき込んできたり、室内展示場のガラス拭きをしている担当者の動きをジーっと見ていたり、時には屋外運動場の改修や植樹作業をしている時も真横に来て興味津々でした。
普通なら、何か大きな作業をする際や音の出る作業をする際は寝室内で待っていてもらいますが、物怖じしない性格の風美は担当者の作業にとても興味を示していたので、風美の安全と万が一の時の逃げ場は確保した上で色々な作業風景や道具も見せることにしました。

風美の性格と興味がありそうという点を加味したのはもちろんですが、様々な環境(音・物・風景)に慣れておくと許容範囲も広がり精神的にも強くなるのでは?という狙いもあったのです。(これは風美だけでなくスバルやメロディに対しても同様です)
過度に過保護にしすぎると、少しの刺激(人や物、音)に対しても過剰に敏感になってしまい精神的にキツイと思います。
動物園では、動物に対して様々な人が関わります。飼育担当者だけでなく、獣医師、獣舎の修繕などの際には施設係、時には取材や実習生も。
許容範囲が広がると、動物にとってその都度ドキドキして過ごさずに済みますよね。
許容範囲が広がったことで、健康管理のためのトレーニングの際に様々な道具や機器を使っても、一度見せたり音を聴かせるだけでだけですんなりと受け入れることができていました。

ある日、屋外運動場の組木を増設する際インパクトドライバーで作業をしていたのですが、風美はまるで現場監督のように作業の様子をすぐ近くで見ていたことも多々ありました。
かなり大きな振動音も出るし…と思っていましたので、これには担当者もびっくりしました。
その他の作業でも、風美はよく現場監督のように担当者の作業を近くで見ていました。


次に「やりたいことをなるべく実現できるようにサポートしたこと」についてです。
加齢とともに、風美は12歳の冬を最後に屋外運動場の高い木に登らなくなりました。
観察している限り低い木には上っていましたが、下りる動作が足腰にかなり負担になっていそうな様子でした。(おそらく上る力はまだありそうでしたが…)
もちろん高齢になれば体力・筋力も少なからず衰えていくものですが、レッサーパンダは本来、一日の大半を木の上で過ごす動物です。風美も木の上で過ごすことは大好きでした。
高齢になると出来なくなることも増えますが、サポート次第で行動を維持できたり増やせたりするなら、できることは何でもしよう!という思いでした。
寝室・屋外運動場にスロープやはしごを設置したり、組木を増やしたり、組木にはすべり止めとして麻ロープを巻いて、木に上るという行動は維持できるように、そして安全に負担なく上り下りが出来るようにしました。

「転落したら危ないから…」という理由で行動を制限することも出来たでしょうが、それでは風美のやりたいという気持ちや意欲を尊重できないし、行動を制限することで体力・筋力も低下し、結果的に出来ることがどんどん減ってしまうことになると考えていました。(もちろん安全面は無視できないのですが…)

余談になりますが、上り下りには爪のケアも重要でした。
高齢になると、運動量の低下により爪が厚肥化しやすくなります。
厚肥化した爪では木登りの際のスパイクのような機能も果たさず、もしも爪が伸びすぎて巻き爪になった場合には通常の歩行にも少なからず影響を及ぼすでしょう。
風美も12歳~13歳頃から軽度の厚肥化が認められたり、屋外運動場の細かい木の根によく爪が引っ掛かって足を取られたりする様子が見受けられました。
レッサーパンダの爪は削れるというよりも、古い爪から新しい爪になる時は、鞘ごとスポッと抜けます。(綺麗に鞘ごと抜ける時もあれば、ささくれのように鞘の一部がめくれて最終的に新しい爪になる時もあります。

レッサーパンダの爪(鞘が綺麗に抜けているとついつい回収したくなります)

厚肥化した爪を放置したままでは、新しい爪になるのは難しいので、定期的に爪のケアもしていました。
爪の先端を動物用の爪切りで少し切り、鞘を左右に軽く開くようにすると古い爪が剥がれます。(日常管理では先端を少し切ってあげるだけでも、普段の運動時に自然と鞘が落ちていたことも多かったです)時には爪のやすりがけを行ったこともありました。


最後に、健康に過ごせるために取り組んだことをお話します。
これについては、part1~3ブログの中でもいくつか書いていますので、そこで書いていないことやこれまでの補足として紹介します。
食事内容の工夫については紹介していますが、高齢になった風美が足腰に負担なく食事をとれるようにするにはどうしたらよいか考えた結果、フードボウルスタンドを利用することにしました。

写真を見ていただければわかりますが、本当にちょっと変えただけですが足腰への負担は軽減されたと思いますし、首や食道もまっすぐになっています。
ちなみに、このフードボウルスタンドはAmazonほしいものリストでご支援いただいたものです。
レッサーパンダたちのより良い暮らしを求めて様々な取り組みをする中で、多くの方からご支援いただきました。
皆様のおかげで色々なことに挑戦できたり、レッサーパンダたちの生活の質向上に有効活用させていただきました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。

上記の例だけでなく植樹用の樹木や遊具など、たくさんのご支援いただきました。
晩年の風美は竹の葉よりも植樹された植物の葉をよく食べていました。
せっかく頂いたものなのに…と思いつつも、沢山の植物(食べても良い植物)がある環境を用意したかったので、それはそれで結果オーライ…⁉と複雑な気持ちでした。


そしてもう一つ、健康に過ごせるようにと取り組んだことといえばやはり「トレーニング」です。
5年間の付き合いの中で毎日の日課でした。来園中にトレーニング風景を見かけた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
トレーニングは出来たことに対して褒める、お互いに楽しくやる、風美がやりたくないときはやらなくても全然OK!というルールでした。
トレーニングを始めた年齢も決して早いわけではありませんでしたが、風美は非常に協力的で驚くべきスピードで色々なトレーニング項目をこなせるようになりました。(これまで様々な動物と一緒にトレーニングしてきましたが、レッサーパンダの習得能力には非常に興味深いものがあります。)
体重・体温測定、聴診、エコー、採血や注射、点眼、開口と歯磨き、全身の触診、指示された場所への移動とその場でのステイetc…。

聴診(心拍数や心音を確認します)
エコー検査中
月に1回の定期採血の様子

これらのトレーニングを活かし、日常の健康管理としては十分な健康チェックが出来ました。
色々な場所が診れたり、検査によるデータが集積されていくことで、早期発見・早期治療に大きく役立ったと思います。また、予防や治療の選択肢も格段に増やせたと思います。
年に1回は麻酔下検査でより詳細な健康診断も行っていましたが、麻酔下検査の事前診断や実際に麻酔をかける際にも日々のトレーニングが活かされました。
…と、ここまで読んでいると、さも高度なことをやっていそうな感じですが、実際には本当に普通のことしかやっていません。
毎日何回もトレーニングしているわけでもなく、1日のうちのほんの数分しかトレーニングしませんし、風美が特別凄かったわけでもありません。日々地味にコツコツ積み重ねた結果なのです。
風美の協力から得られた数々のデータは、今後の当園でのレッサーパンダ飼育で活かされることもあるでしょう。
毎日トレーニングに協力してくれた風美には本当に感謝しています。
トレーニング中は色々と考えることで頭の体操にもなり、良い刺激になっていたのでは?と思います。
(トレーニング中の写真を探したのですが自身がトレーニングする立場だと中々写真が撮れず、紹介できそうな写真があまりありませんでした。。。)

風美らしいと思ったトレーニング中のエピソードがあります。
トレーニングではどの項目を行う際もサインを出す担当者の方をしっかりみてね!(見ないとサインを出しません)というルールでした。
まっすぐで素直な風美は、「体重計に乗りじっとする→OKの合図で下りる→2~3m離れた担当者のもとへ来てご褒美をもらう→再度体重計に乗る」という際に、担当者から片時も目を離さず毎回後ずさりで再度体重計まで戻っていたのが微笑ましかったです。

体重測定も難なくこなす風美。5年間で1000回以上測定し健康管理に役立つデータ収集が出来ました。


さいごに。。
ホームページでのお知らせにもあったように死因が心臓の疾患であることは生前診断でも分かっていたことですが、風美が死亡してしばらくしてから詳細な病理検査結果が出ました。
結果を見て、16年間これまで何事もなく普通に過ごせていたのが奇跡のように思えました。
正直、この結果をかなり早い段階で分かっていたとしても実際はどうすることも出来なかったでしょう。
そんな中、最後の最後まで本当に「風美らしく」よく頑張ってくれたと思います。
心疾患のそれさえなければ、もう少し長生きできたのかも…⁉と思うと少し悔しさもあります。

亡くなってしばらく経ちますが、来園者の方といまだに風美のことをお話しする機会もあり、いかに皆さんに愛されていたか実感する日々です。
風美とのエピソードはまだまだキリがないほど沢山あります。
今回のブログで最終回としますが、たまにで良いので「風美」というレッサーパンダがいたことを思い出していただけたら幸いです。
とても長くまとまりのないブログになってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

風美がはるばる千葉から平川に来てくれて、担当させてもらえて、本当に良かったー!


次からはいい加減フライングケージ、世界のツルゾーンについてブログを書こうと思っている(元)レッサーパンダ担当 日高

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