レッサーパンダ「風美」との5年間-part3

皆さん、こんにちは!
フライングケージ、世界のツルゾーン担当の日高です。
今回のブログもタイトルにある通り、前回のブログの続きを書いていこうと思います。
話の流れ上、part1→レッサーパンダ「風美」との5年間-part1 – 平川動物公園公式サイト (hirakawazoo.jp)、part2→レッサーパンダ「風美」との5年間-part2 – 平川動物公園公式サイト (hirakawazoo.jp) を読んでいない方は是非そちらからお願いします。

今回のブログでは、part1のブログ中で3つの目標として掲げていた2つ目「毛並みを少しでも改善したい」についてです。

風美に出会った当初、気になったことの一つが下半身の毛並みが悪く、薄毛の状態だったことです。
症状は個体によって様々ですが、レッサーパンダ飼育担当者の悩みの一つとして被毛に関することが多い印象です。
レッサーパンダの見た目からも分かるように、寒さや雪に適応できるよう大変多くの毛で覆われている動物ですので、一部に異常があるとその分かなり目立ちやすく、さらに担当者を悩ませます。。
また、レッサーパンダは換毛期があり季節によっても見た目が随分と変わる(ボリュームダウンした感じに見える)ことがあります。(個体によってはあまり見た目が変わらないこともあるようですが…。)

2019年11月14日の様子

風美はこれまでにも被毛に関して様々な検査や治療をしていたようでした。
歴代の関係者も定期的に毛や皮膚の検査(寄生虫や細菌などの有無)をしたり、時にはアレルギー検査や甲状腺ホルモンの検査等行っていたようでしたが、なかなか思うような原因の特定には至らず、症状は一進一退といった様子でした。
単純にダニなどの寄生虫やカビなどの細菌だけが原因であれば、投薬により状態は徐々に改善していくものですが、これらに該当しない場合は原因が分かりにくく一筋縄ではいかないので非常に悩まされます。

担当になってまず初めに歴代の担当者同様被毛の検査を何回か行いましたが、それらしい原因には当てはまりませんでした。(過去にダニが検出されたこともあったようですが、それも何十回も検査を実施してやっと検出ということだったようです。)
そこで、前職(他園)での使用経験から寄生虫の駆虫・予防も兼ねて(検査では検出されなくても寄生虫が少なからずいると見越して…)とある薬を定期的に使用してみてはどうか?と提案しました。
レッサーパンダは普段から月1回フィラリアの予防として駆虫薬を経口投与していましたが、この薬の効果に加えてダニなどの駆虫・寄生予防効果が加わった別の薬を滴下することに変更しました。
これはそれなりに効果が得られたと思いますし、使うと使わないではやはり差があるので症状の悪化を防げたように思います。


そして、風美の観察をしていて、グルーミングは自身でしっかりしていましたが、歯が一部脱落している影響も多少あるのか?頑張ってしている割にあまり上手ではなかったのと、加齢とともに行き届かない場所があることが分かりました。
それにより、うまく換毛しきれず古い毛が残っていたり、古い毛が塊になった層の下で本来出てくるはずの新しい毛が埋もれていたりするような状態も見られました。
また、被毛自体の状態があまり良くなかったので雨で濡れると毛がまとまり、さらにそれをグルーミングすることで余計に絡まったり団子状に固まったりしていることが分かりました。

雨の日の被毛の様子(この状態でも出会った当初よりは少しマシになった頃…)

通常であれば、レッサーパンダは上毛(オーバーコート)と下毛(アンダーコート)があり、雨などは上毛で凌ぐので下毛まで濡れることはありません。
しかし、前述したように下半身は薄毛で上毛もまばらだったので濡れてしまうと下毛まで浸透し、内部が濡れて毛がまとまった状態になっていました。(質感を例えるなら、濡れたフェルト素材のような感じでしょうか)
また、濡れた状態だとグルーミングが加速する傾向にあることが分かりました。

そこで、被毛の状態が安定するまでは雨の日は室内管理とし、なるべく濡らさないように気を付けました。(この頃は飼育作業の合間によく雨雲レーダーを見ていたこと思い出しました。)
万が一濡れてしまった場合はタオルで拭き上げ、なるべく濡れた状態が続かないように気を付けました。
そして、日々のグルーミングの補助・換毛期の補助・被毛の状態改善・被毛のサイクルを通常に戻す効果を狙って補助的にブラッシングをすることにしました。

換毛期1回5分のブラッシングで抜けた毛
換毛期にはごみ箱がすぐに一杯に!
いかに毛で覆われている動物かが分かります

最初の2年間は、絡まったり固まったりしている部分をほぐすのにかなりの時間を要しました。この部分には汚れも付着しやすく厄介でした。
びっくりするほどブラシが通らず、無理に通そうとすると根こそぎ毛根や皮膚ごと剥がれそうになり、風美自身も多少引っ張られる感覚があるようで一度に長時間協力してもらうこことは難しかったので本当に少しずつ進める必要がありました。
(そういえば、今から13.14年前に前職(他園)で高齢のレッサーパンダの飼育に関わっていた時も、高齢のレッサーパンダにブラッシングをしたり、どうしても毛玉がある箇所はトリミングの資格を持ったスタッフがいたのでカットしてもらっていたことを思い出しました。)

2020年4月17日の様子
2020年6月18日の様子

風美の被毛に関しては短期間で劇的な改善は難しいとは思っていたので、とにかく出来ることを根気強く継続してやるしかないという日々でした。あわせて、栄養面で改善できることや新しく取り入れられることはないか模索する日々でした。
来園者の方に「あのレッサーパンダ、ハゲてる」とか「なんか変な皮膚病なんじゃない?」と言われ続けていて、風美に申し訳ない気持ちと、絶対に諦めたくない!という気持ちがありました。

地道にブラッシングを続けながら、いくつかの栄養を補う数種のサプリメントを食事に取り入れました。被毛に関しての効果を狙ったのはもちろんですが、高齢になってきた風美に必要な栄養素の摂取という点もふまえて、全身状態が良くなることを狙っての選択でした。

また、レッサーパンダの食性を考えてみると本来食事の大部分を占めるのが竹の葉です。とにかく「竹の葉を食べてこそなんぼ!」の生き物です。
しかし、高齢になると歯が摩耗したり脱落したりして十分な採食量が得られないことがあります。
加齢とともに風美の便は竹を食べた便の割合が少なく、他のレッサーパンダの便状と比較してみても(竹の葉を沢山食べていたとしても)ほとんど咀嚼されずに排出されていることが分かっていたので、竹の葉をしっかり効果的に摂取できるように竹の葉をミルサーにかけたものを毎食添加し、負担なく確実に摂取できるようにしました。(これも前職で高齢レッサーパンダたちに行っていたことで、風美にも活かせるのでは?と思っていました。)
とにかく食への執着が強かった風美ですので、サプリメントも竹の葉をミルサーにかけたものも数回で慣れてくれました。

竹の葉をひたすらちぎり、はさみで細かく切る。簡単な作業ですがとても時間がかかります。
細かくしたものをミルサーにかける。
竹の葉と粉末状にしたサプリメントを通常の食事に混ぜ合わせる。

そんなこんなで、様々な取り組みを始めて3年過ぎたころから僅かに改善の兆しが見られました。4年を過ぎたころからやっと目に見える改善がありました。
完全に綺麗な状態とは言えませんでしたが、全体を通して状態の安定(薄毛が改善し、上毛もやや生える)と、来園者の方から「ハゲている」と言われることがほとんどなくななりました。
もちろんブラッシング時に何の引っ掛かりもなく、スムーズにブラシが通せる状態になりました。

2021年3月22日の様子
2021年6月17日の様子
2022年8月8日の様子

「風美らしいな~」と思ったのは、長期に渡ってブラッシングを日課としていたので、風美自身でグルーミングはしていましたが、一度ブラッシングされるとされるがまま、むしろ「そちらがしてくれるならそれでいいや~!」といった感じで、過度なグルーミングや掻く行動が減少していき、風美が適度に自身でのグルーミングを手抜きしてくれたおかげで、毛が絡まったり固まったりすることがなくなり症状改善に役立ったのかもしれません。

2023年1月25日の様子。5年目でやっと!ついに!この状態

個体や環境によって症状は様々で、改善方法もなかなか一筋縄ではいきません。
風美に関してはすぐに改善できそうな状態でもなく、変化も年単位でほんの僅かでしかなかったので何度か心が折れそうになりましたが、飼育員が諦めたらそれで終わり!
とにかく地道にやるしかない5年間の被毛との闘いでした。

長くなりましたが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
次回 part4(おそらく最終回⁉)も楽しみに!

フライングケージ、世界のツルゾーン担当 日高

  

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