入園ゲートに置いてある「意見箱」に
「園内の においを何とかしてほしい」
というご意見が寄せられることがあります。
不潔な環境で飼育していることによって臭うのであれば、それは良くないことです。しかし、清潔な環境で飼育することは病気を予防するために必要なことですから、飼育員は欠かさず担当エリアの清掃作業をしています。清潔にしていても残るある程度の体臭などは、やむを得ないものです。
私たちヒトという生き物は話したり読んだり、つまり聴覚や視覚に頼ったコミュニケーションを主にしています。
一方で、匂いで情報を得たり、伝えたりする生き物も数多くいます。
イヌを散歩に連れ出すと、地面に鼻を擦りつけるようにして嗅ぎ、電柱などに尿でマーキングするのを見たことがある方は多いのではないでしょうか?
これは匂いによるコミュニケーションのためなのです。
匂いによって性別、年齢、繁殖適期であるかどうか、などの情報を伝え合っているのです。いわば匂いはプロフィールなのです。
今の時代、テレビや動画配信サイトで動物の姿を気軽に見ることができるようになりました。見たことがあるものは、知っていて、分かったような気持ちになりがちです。
しかし、見ただけでは伝わらないものもあります。それは匂いです。
いくら技術が進歩しても、テレビで匂いを伝えることは難しいでしょう。
ですから、実物を目の前にして嗅覚でも動物たちを感じられるのは、動物園ならではではないでしょうか。匂いも含めて動物たちのことを知ってもらいたいと考えています。
同じ草食獣でもキリンとシマウマでは違った匂いがしますし、同じ類人猿でもオランウータンとチンパンジーでは匂いが異なります。
シカは繁殖期の秋になると特有の匂いがします。
特にオスは強い匂いを発します。
その匂いがすると、私は秋を感じます。
アシカは真水で飼育していますが、「海の香りがする」と言う人もいます。
海水魚を餌にしているからでしょうか?
動物園では見るだけではなく、「嗅ぐ」楽しみ方もあります。
臭いがするからイヤ、などと言わず 感覚をフルに使い、動物たちの立場に立って理解してもらえたら嬉しいです。
園長 福守